【雑学】ドイツ語で「小さな継母」とはどんな花?

2025/05/07

ドイツ語

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ハロー。Yumaです。

皆様、今日も楽しんで語学してますか?

19世紀にグリム兄弟によって編纂された童話集、いわゆる「グリム童話」には、しばしば「継母」が登場します。

継母は、ドイツ語で"Stiefmutter" [シュティーフムッター]と表現します。

後半の"mutter"は英語"mother"に相当し、「母親」という意味です。一方で前半の"Stief-"は、「義理の」という意味の接頭辞です。

"Stief-"に相当する英語は"step-"であり、英語においても"stepmother"「継母」とか「義理の母」という意味で使われます。


なぜ"Stief- / step-"が「義理の」という意味なのか?

英語において、"step"は一般名詞で「一歩」とか「一段」という意味があります。

では、なぜ接頭辞では「義理の」という意味で用いられるのでしょうか。

実は語源的に一般名詞の"step"と接頭辞の"step-"には関係が無いようです。

英語版Wiktionaryによれば、一般名詞の方は古英語期には"stepe"「一歩」であり、印欧祖語の*stebʰ- (“to support, stomp, curse, be amazed”)「支える、踏み鳴らす、ののしる、驚かされる」に遡ることができると推定されています。

一方で接頭辞の"step-"のルーツは以下の通りです。

from Old English steop-, used in such combinations as steopcild "orphan." The element is also found as the stem in the verbs astiepan, bestiepan "bereave, deprive of parents or children." The original connotation is presumed to be "loss."

対訳:古英語のsteop-から、steopcild「孤児」のように組み合わせて用いられた。この接辞は動詞astiepanbestiepan「親や子から~を奪う、奪い去る」の語幹にも見られ、本来の意味は「喪失」であると推定される。

(出展:Online etymology dictionary

現代ではたまたま同じ綴りながら、古英語期には違いが明確です。またアメリカの言語学者Watkins氏は、そのルーツを印欧祖語の*steupa-「奪われた」と推定しており、ドイツ語の"Stief-"も同様だとしています。

語源を紐解くと、ドイツ語の"Stiefmutter"や英語の"stepmother"とは、「(実の)子供を奪われた母親」が本来の意味に則しているのかもしれません。

「継母」が必ずしも自身の子供を失っているわけではありませんが、子供と直接的な血のつながりが無いという点で現在の意味になっていると思われます。


ドイツ語で「小さな継母」とは?

「継母」に関連して、ドイツ語には「小さな継母」と訳せる単語があります。

それが"Stiefmütterchen" [シュティーフミュッターヒェン]です。

語尾の"-chen"は対象に「小さい」という意味を与える接尾辞(指小辞)です。

例えば、"Brot" [ブロート]「パン」に"-chen"がつけば"Brötchen" [ブレートヒェン]「小さなパン」という単語が派生します。

なお、"-chen"がつくと元の単語の母音に点々がつくことがあります。これはウムラウト(独:Umlaut)という変音記号であり、後続する"-chen"の影響で音が変わることを示しています。

話はそれましたが、"Stiefmütterchen"は元の語"Stiefmutter"に"-chen"がついて、直訳するならば「小さな継母」といえますね。

ところが、試しにGoogleの画像検索で"Stiefmütterchen"を調べてみてください。

検索結果には、カラフルなお花の画像が一面に表示されるはずです。

それもそのはず、ドイツ語で"Stiefmütterchen"とは文字通り「小さな継母」ではなく、お花の「パンジー」を指す言葉だからです。


なぜパンジーは"Stiefmütterchen"と言う?

では、なぜパンジーのことをドイツ語では"Stiefmütterchen"と表現するのでしょうか。

ドイツ語版Wikipediaには、パンジーの構造について以下のように記載されていました。

Das breite unterste Kronblatt, die „Stiefmutter“, bedeckt teilweise die seitlichen, die „Töchter“, und diese wiederum die beiden obersten, die „Stieftöchter“.

対訳:一番下の幅広い花びらである「継母」が横の花びらである「娘」の一部を覆い、さらにそれ(娘)が一番上の2つの花びらである「継娘」を覆います。

(参照:de.wikipedia

パンジーには花びらが5枚あり、下に1枚(=継母)、横に2枚(=娘)、そして上に2枚(=継娘)の花びらで構成されているそうです。そして、その花びらを支える「がく片」もまた5つあります。

ところが5枚の花びらと5つのがく片は11の関係ではないのだそうです。ではどういう関係かと言うと、1枚の継母には2つのがく片があり2枚の娘には2つのがく片があるのに対し、残る2つの継娘の方には1つのがく片しかありません。

継母が自身と(実の)娘たちを優遇し、血のつながらない継娘を冷遇するというのはグリム童話にありそうな話ですが、それがパンジーの花びらとがく片の関係になぞらえられたというわけでしょうか。

何とも面白い命名ですね。


最後に

いかがでしたでしょうか。今回は、ドイツ語で"Stiefmütterchen"について調べてみました。

直訳の「小さな継母」がなぜ「パンジー」という意味で使われているのか、何とも興味深い理由が見つかりました。

今後も面白い発見があれば当ブログで紹介していきたいと思います。

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プロフィール

Yuma
様々なヨーロッパの言語を独学し、日々の学習で得た発見や個人的に興味深い語学ネタを発信しています。外国語学習に疲れたとき、息抜きに読んでもらえれば幸いです。

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