不思議な多義語について調べてみた【出口は東?】

2022/08/03

単語

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ハロー。Yumaです。

皆様、今日も楽しんで語学してますか?

言葉の運用において「多義語」の存在は注意しなければいけませんね。

ウィキペディアによれば、「多義語」とはひとつで複数の意味を持つ語のことであり、もともと別の語であったものもあれば、同一語であったが歴史的に意味が分化し別語と認識されるようになったものとがあるとされています。

(参照:ja.wikipedia.org/wiki/多義語)

いずれにせよ意味を取り違えると正しく伝わらなくなってしまうため、注意が必要です。

今回はいろいろな言語における多義語について調べてみました。


英語"cancer"「がん」「かに座」

英語の"cancer"は「がん」という意味の他に「かに座」の意味も持つ多義語です。

※「かに座」の用法においては常に"Cancer"のように語頭は大文字です。

病気の「がん」と星座の「かに座」には関連が無さそうですが、この多義語はどうして生まれたのでしょうか。

Online etymology dictionaryによる解説は以下の通りです。

from Latin cancer "a crab," later, "malignant tumor," from Greek karkinos, which, like the Modern English word, has three meanings: a crab, a tumor, and the zodiac constellation represented by a crab,(中略)Greek physicians Hippocrates and Galen, among others, noted similarity of crabs to some tumors with swollen veins.

対訳:ラテン語cancer「かに」後に「悪性の腫瘍」、由来となったギリシャ語karkinosは現代の英語のように3つの意味(「かに」「腫瘍」「かに座」)を持っていました、(中略)ギリシャの医師ヒッポクラテスやガレンらにより、がんでふくれた静脈がかにと類似していることが言及されていました。

(出典:Online etymology dictionary

ヒッポクラテスは紀元前の人物ですが、科学的な見地から医学を発展させたことで「医学の父」と呼ばれ知られています。

その当時に言われていた「がん」と「かに」の類似性が現代の用法に影響を与えているとは驚きですね。

引用中のギリシア語"karkinos"の他に、ドイツ語"Krebs" [クレープス]も「エビ、ザリガニ」と「がん」の意味を持つ多義語であり、古代の発見が由来となった例と言えます。


ドイツ語"Bank"「ベンチ」「銀行」

続いてドイツ語"Bank"は「ベンチ」の他に「銀行」という意味を持つ多義語です。

ドイツ語の名詞は単数形の時に男性、女性、中性のいずれかの性を持ちますが、"Bank"は「ベンチ」、「銀行」どちらの意味でも女性名詞です。

ただし、複数形になると形が異なります。

「ベンチ」の意味の複数形:Bänke [ベンケ]

「銀行」の意味の複数形:Banken [バンケン]

意味を間違えない為には複数形の変化も気を付けなければいけないので要注意です。

この多義語は語源こそ同じであるものの、現代語に至るまでのルーツが異なるという面白い歴史があります。

1."Bank"「ベンチ」のルーツ

From Middle High German and Old High German banc, bank (“height”), from Proto-West Germanic *banki, from Proto-Germanic *bankiz.

対訳:中高ドイツ語および古高ドイツ語banc, bank「高さ」、西ゲルマン祖語*banki、ゲルマン祖語*bankizから。

(出典:Online etymology dictionary

2."Bank"「銀行」のルーツ

Borrowed from Italian banco (“bench, bank”), from the same Old High German word banc, bank (“height”) as above.

対訳:イタリア語banco「ベンチ、銀行」からの借用、古高ドイツ語banc, bank「高さ」から。

(出典:Online etymology dictionary

どちらもゲルマン系の単語が語源だったのが「銀行」という用法はイタリア語"banco"を経由して現代ドイツ語に取り入れられています。

これは中世イタリア・ルネサンス期に、フィレンツェの銀行家らが金融取引で用いた「机」を意味する"banco"が由来となっています。

ゲルマン起原の単語がイタリア語で用いられた後に、再びドイツ語に取り入れられたというのは面白いですね。


チェコ語"východ"「出口」「東」

最後に取り上げる多義語はチェコ語"východ" [ヴィーホト]です。

英語版wiktionaryによると、"východ"には以下3つの意味があります。

1.(建物の)出口

2.東

3.日の出

「出口」と「東」という意味が同じ単語"východ"で表されるというのは面白いですね。

チェコ語はロシア語やポーランド語などと同じスラヴ語派という言語グループに属しますが、「出口」と「東」を一つの単語が担う例は調べる限りチェコ語のみのようです。

残念ながら"východ"が多義語に至った由来は調べたものの分かりませんでした。恐らく"východ"が「外に」という意味の接頭辞"vý-"と「進行」などを意味する名詞"chod"の複合形であることから、太陽が外に(地平に)出る方向 =「東」「日の出」になったのではと思われます。

ちなみにチェコ語で「出口」の反対は"vchod" [フホト]が「入口」であるのに対し、「東」「日の出」の反対は"západ" [ザーパト]で「西」「日の入」を意味します。

「入口」と「西」は別の単語が用いられているので要注意ですね。


最後に

いかがでしたでしょうか。今回は多義語について、3言語の例を調べてみました。

一見すると関連性の無さそうなそれぞれの意味も、語源やルーツを辿ってみると歴史的な背景から新しい発見ができますね。

今後も面白い発見があれば当ブログで取り上げていきたいと思います。

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様々なヨーロッパの言語を独学し、日々の学習で得た発見や個人的に興味深い語学ネタを発信しています。外国語学習に疲れたとき、息抜きに読んでもらえれば幸いです。

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