ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
古代ローマ時代の公用語・ラテン語を母体として後に各地で発展した言語、例えばイタリア語やスペイン語、フランス語は子音"h"を発音しないことで有名です。
現代語において"h"の表記自体がつづりから脱落した例もありますが、フランス語では比較的"h"のつづりが残されているように感じます。
というのも実はフランス語の発音において子音"h"は重要な役割を果たしているのです。
「無音の h」と「有音の h」とは?
フランス語では先述の通り子音"h"は発音されません。
であるにも関わらず、"h"には「無音」と「有音」の2種類が存在します。
何が違うのでしょうか?
実はフランス語のルーツであるラテン語では子音"h"はもともと発音されていました。音は現代英語と同様、カナ表記すれば「ハ行」の音になります。
ところが時代を経て発音されなくなり現代に至っています。
ただ、フランス語には地理的な要因からゲルマン系の言語(ドイツ語)が取り込まれており、その際に子音"h"の音が復活するのです。
(ゲルマン系の言語では子音"h"は発音されるため)
最終的にはゲルマン起原の"h"も発音されなくなり現代に至るのですが、そうした背景の違いが「無音」と「有音」の2種類を生み出しているのです。
「有音の h」がもたらす効果とは?
では、発音しないにもかかわらず「無音」と「有音」で区別するのは何故でしょうか?
それは発音上の規則によるものです。
フランス語では、母音ではじまる単語は直前の語と音がつながって発音されます。
例)mon ami [モナミ]「私の友人(男性)」
このとき[モン・アミ]より[モナミ]と続けた方が発音しやすいですね。これをアンシェヌマンと呼びます。
他に、定冠詞"le"を添えた場合は次のようになります。
例)l’ami [ラミ]「その友人(男性)」
本来は"le ami" [ル・アミ]ですが [ラミ]の方が発音しやすく、つづりの上でも"l’ami"とつなげてしまった方がすっきりします。これをエリジオンと呼びます。
これが「無音の h」の場合も同様のことが起こります。
例)l’histoire
[リストワール]「その歴史」
一方で「有音の h」では上述の事象が起こりません。
例)la hache [ラ・アシュ]「その斧」(l’hache [ラシュ]は誤り)
"hache"「斧」はゲルマン語起源で古くは[ハシュ]のように子音"h"が読まれていたのでしょう。
現代では発音こそなくなりましたが、あたかも"h"が発音されるように扱われるのです。
後付けで「有音の h」が現れた例も!
以上から、フランス語の2種類の"h"は次のようにまとめることができるでしょうか。
無音の h ・・・ ラテン語起源の単語、前の語と音がつながる。
有音の h ・・・ ゲルマン語起源の単語、前の語と音がつながらない。
ところが次のような単語の例もあります。
例)haut [オ]「高い」
この単語はラテン語"altus"に由来しますが、存在しなかった子音"h"が後に出現しています。
これは歴史上でラテン語"altus"にフランク語*hauh(意味はどちらも「高い」)が影響し、古フランス語"haut, halt"を経て現代語"haut"に落ち着いたという例です。
また元は「無音の h」が「有音の h」へと転じた例もあります。
例)héros [エロ]「英雄、ヒーロー」
この単語は、由来のラテン語"heros"にも子音"h"を有していました。
本来であれば「無音の h」に属するはずが、後に「有音の h」へと転じたのですが何故でしょうか?
それは複数形のとき定冠詞"les"を添えた際の発音上の問題でした。
「無音の h」だと・・・les
héros [レゼロ]
「有音の h」だと・・・les
héros [レ・エロ]
無音の hの場合、音がつながって[レゼロ]のようになります。これがまるで"les zéros" [レ・ゼロ]「無、ゼロ」のように響いてしまうため、「有音」化して"héros"の地位を守ったというわけです。
子音"h"が無くても「有音の h」を意識する語、"oui"
他には、こんな例もあります。
例)oui [ウィ]「はい」
日本語「はい」、英語"yes"に相当する基礎的な単語"oui"ですが、この単語には子音"h"は存在しません。
であるにも関わらず、この単語はあたかも「有音の h」がつく単語であるように扱われるのです。
"oui"は専ら「はい」という肯定の副詞として用いられますが、「はい(という返答)、肯定、賛成」を意味する名詞的用法もあります。
名詞的用法では、定冠詞を以下のように"oui"と分けて表記しなければなりません。
例)le oui [ル・ウィ](l’oui
[ルイ]は誤り)
実際の用法として、フランス語版ロイター社で次のような記事がありました。
Le "oui" au rattachement de régions d'Ukraine à la Russie l'emporte
対訳:ウクライナ各地域のロシアへの帰属、「賛成」が勝利。
(参照:https://jp.reuters.com/article/ukraine-crise-referndums-idFRKBN2QT0AB)
ここでLe "oui"となっているのは"oui"が強調されているのではなく、そもそもルール的に音やつづりをつなげないようになっているから、というわけですね。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回はフランス語における子音"h"の取扱いについて調べてみました。
現代ではそれ自体が発音されることは無くなりましたが、音やつづりの関係において子音"h"は重要な役割を果たしていたというわけですね。
また"oui"の例のように、つづり上に存在していなくとも「有音の h」があるかのように扱われる単語があるというのも興味深いです。
今後も学習の中で興味深い発見があれば当ブログで紹介していきたいと思います。