ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
言葉を操る能力は私たち人間に固有の能力という訳ではありません。
例えば鯨の一部はクリック音で仲間とコミュニケーションをとる様子が確認されていたり、カラスはその鳴き声の種類で仲間に餌場や危険を知らせたりするのだそうです。
こうした動物を対象とした「動物言語学」はこの数年でインターネットの検索にもあがるようになっています。
人間の言語だけでも数えきれないくらいの種類があるのに加え動物も視野に入れれば、言語の世界はますます広く深い研究対象となっていきますね。
ドイツ語で「カラス」を何と言う?
私は人間の話す言葉の学習で精いっぱいですので、当ブログでは引き続き人間の言語、とりわけヨーロッパの言語を扱っていきます。
今回は「カラス」について考えてみました。
ドイツ語で"Krähe" [クレーエ]と言います。
※種類によっては"Rabe" [ラーベ]とも言われます。
英語の"crow" [クロウ]とよく似ていますね。両言語が共にゲルマン語派というグループにルーツを持つとされることが分かります。
"Krähe"も"crow"も印欧祖語で「叫ぶ、キーキー鳴く」という意味の語根"*ger-"から生まれたそうです。
from Proto-Indo-European *ger- (“to scream, cry, creak”).
(参照:en.wiktionary)
そもそも、言葉がどのように生まれたか完全には明らかになっていませんが仮説の一つに「ワンワン説」"Bow Bow theory"というのがあります。
鳴き声からその動物を表す語ができたとする仮説です。
"Krähe"も"crow"も「カーカー」言う鳴き声から生まれた擬声語だという訳ですね。
ドイツ語で「カラスが鳴く」を何と言う?
カラスの鳴き声といえば日本語では「カーカー」や「カアカア」という表記が一般的ではないでしょうか。
日本語では「鳴く」という動詞に、「カーカーと」等の副詞を添えて表現します。
ではドイツ語で「カラスがカーカーと鳴く」を何と言うでしょう?
辞書によれば以下の例が見つかります。
Die Krähe krächzt. [ディ・クレーエ・クレヒツト]
動詞"krächzt"(不定形は"krächzen" [クレヒツェン])の一語で「カーカーと鳴く」と表現できるわけです。
更に辞書によるとこの"krächzen"は、『(カラス・カエルなどが)カーカー〈ガーガー〉鳴く』とあることから、カエルの鳴く様子も表すことができそうです。
他に動物の声を表す動詞(不定形)として以下の単語が挙げられます。
blöken [ブレーケン] (ヤギ・羊が)メェーと鳴く、(牛が)モーと鳴く
miauen [ミアウエン] (猫が)ニャーと鳴く
猫の鳴き声は音からイメージがしやすい例ですね。
またこうして見ると、ドイツ語には1語で複数種類の動物の鳴き声を表現することができるようです。
カラスの鳴き声は雄鶏の声?
ところで動物の鳴き声を表す動詞において不思議な例があります。
"krähen" [クレーエン]です。
この動詞は上で見た名詞"Krähe"「カラス」と形がそっくりなことからも分かる通り、同じ語源に由来します。
この動詞の意味は辞書によると以下のように解説されています。
(おんどりが)鳴く;((話))かん高い声でしゃべる〈歌う〉;(幼児が)歓声をあげる
(参照:プログレッシブ独和・和独辞典)
"Krähe"「カラス」と関連する語でありながら、なぜか動詞では「(おんどりが)鳴く」という意味になるのです。
雄鶏はドイツ語で"Hahn"[ハーン]ですので、「雄鶏が鳴く」は次のように表現できます。
Der Hahn kräht. [デア・ハーン・クレート]
雄鶏の鳴き声(日本語では一般的に「コケコッコー」)はカラスの鳴き声と似ているとはあまり思えません。
それだけに何とも不思議な単語です。
英語の場合も同様?
調べてみると英語でも同じ状況であることが分かりました。
先述の通り、「カラス」は英語で"crow"と言います。
辞書を引くと、この単語は動詞として以下の意味も持っていることが分かります。
1.〈雄鶏が〉鳴く、ときをつくる
(参照:プログレッシブ英和中辞典)
ドイツ語と同様にカラスの鳴き声を表さないどころか、やはり「〈雄鶏が〉鳴く」という意味になっています。
英語で「カラスがカーカー鳴く」と表現したい場合、動詞"caw" [コー]が用いられるようです。
The crow caws.
ドイツ語と英語は同じゲルマン語派にルーツを持つとは言え、「カラス」の動詞形がそれぞれ雄鶏の鳴き声を意味する点まで同じというのは何とも不思議です。
なぜ動詞では雄鶏の鳴き声を意味するようになったのでしょう?
残念ながらその理由は分かりませんでした。
Old English crawan "make a loud noise like a crow," probably imitative. From mid-13c. as "make a loud noise like a cock," which oddly has become the main sense,
対訳:古英語crawan「カラスのように大きな音を立てる」、恐らく擬声語由来。13世紀中ごろから「雄鶏のように大きな音を立てる」として使われ、奇妙なことにそれが主要な意味になっていった。
(出典:Online
etymology dictionary)
これは個人的な推測ですが、名詞「カラス」と動詞で同じ単語が続くこと避ける為でしょうか。
ドイツ語 Die Krähe
kräht. → Die Krähe krächzt.
英語 The crow
crows. → The crow caws.
また引用中に"a loud
noise"とあるようにカラスと同様、またはそれ以上に鳴き声の大きな雄鶏が代わりに「鳴く」という意味を担うようになったのかもしれませんね。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回はドイツ語"Krähe"「カラス」について考えてみました。
関連する動詞"krähen"が「(おんどりが)鳴く」になるというのは何とも不思議であり、また結果として理由は分からなかったものの、調べてみると英語でも同じ状況であるという興味深い発見もありました。
今後もこうした発見があれば当ブログで紹介していきたいと思います。