ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
外国語学習はたいてい文字と発音、あいさつといった日常表現の学習から始まるものだと思います。
今回、ドイツ語、フランス語、ロシア語におけるそれぞれのあいさつ表現について調べてみました。
なぜか微妙に違う「おやすみなさい」の表現とは?
まずはタイトルの意味についてです。
微妙に違う「おやすみなさい」の表現とはどういうことでしょうか?
日本語であれば主に時間によって「おはよう」、「こんにちは」、「こんばんは」と使い分けられ、寝る前には「おやすみなさい」というあいさつがあります。
外国語でもやっぱりそれぞれに相当するあいさつの表現があるのですが、どうも「おやすみなさい」だけが微妙に違うのです。
今回取り上げる3言語のあいさつを以下から順番に並べてみますので、一緒に確認してみましょう。
1.ドイツ語の「おやすみなさい」
まずはゲルマン系の言語の1つ、ドイツ語の場合です。
あいさつの表現は以下のバリエーションがあります。
Guten
Morgen. [グーテン・モァゲン] おはよう
Guten
Tag. [グーテン・ターク] こんにちは
Guten
Abend. [グーテン・アーベント] こんばんは
英語の"good"と形が似ているので推測がつくかもしれませんが、どれも最初の"Guten"が「良い」という形容詞です。
続く"Morgen、Tag、Abend"が名詞で順番に「朝、昼、晩」という意味です。
(ちなみに、ドイツ語では名詞は固有、一般問わず必ず大文字で書き始めるというルールがあります)
では「おやすみなさい」はどう表現するかと言うと以下の通りです。
Gute
Nacht. [グーテ・ナハト] おやすみなさい
どうでしょう? 最初の形容詞が"Guten"ではなく"Gute"であり、形が微妙に違います。
これは、続く名詞"Nacht"「夜」が子音"n"で始まる単語だから重複を避けた、という訳ではありません。
ドイツ語の文法的な理由によるものです。
なぜ"Gute Nacht."は微妙に違う?
そもそもドイツ語のあいさつは本来、以下の文章が省略されたものです。
Ich wünsche einen guten Tag!
これは「私は良い日を願います」という意味で、終わりの2単語が独立して"Guten Tag."というあいさつになったという訳です。
この時、日本語「を」という助詞にあたる機能がドイツ語では対格という格によって示されます。
対格という形のとき、形容詞は本来の"gut"が"guten"という形に変化して名詞"Tag"を修飾することになっています。だから、"Guten Tag."なのです。
これは"Morgen"や"Abend"でも同じです。
"Gute Nacht."も仕組みは同じです。ただし、修飾する名詞の性によって形容詞の対格の形が違うのです。
"Morgen"や"Tag、Abend"はいずれも男性名詞に分類されます。一方で、"Nacht"だけが今回の例では女性名詞に分類されます。
女性名詞を修飾する形容詞の対格は"guten"ではなく、"gute"とします。
ドイツ語で「おやすみなさい」が他と比べて微妙に違う理由は、修飾する名詞の性が違うからだったという訳です。
2.フランス語の「おやすみなさい」
続いてはロマンス系の言語から、フランス語のあいさつを見てみましょう。
あいさつの表現は以下のバリエーションがあります。
Bonjour.
[ボンジュール] おはよう / こんにちは
Bonsoir.
[ボンソワール] こんばんは
フランスでは一般的に「おはよう」も「こんにちは」も"Bonjour"が用いられるそうです。
この"Bonjour、Bonsoir"はどちらも"Bon"が「良い」という形容詞で、後半部が名詞"jour"「昼、日」および"soir"「晩」です。
あいさつの構成としては「良い日」や「良い晩」であり、ドイツ語の構成と似ていますが形容詞と名詞が一語になっている点が特徴でしょうか。
では「おやすみなさい」はどう表現するかと言うと以下の通りです。
Bonne
nuit. [ボン・ニュイ] おやすみなさい
どうでしょう? "Bonjour"や"Bonsoir"のように1語ではなく2語で、更に形容詞が"Bon"ではなく"Bonne"と微妙に違います。
なぜ"Bonne Nuit."は微妙に違う?
なぜ形容詞の語形が微妙に違うのか、既にお気づきかもしれませんがドイツ語の例と同じように修飾する名詞の性が影響しています。
つまり、"jour"「日、昼」と"soir"「晩」は男性名詞であり"nuit"「夜」は女性名詞であるという違いが影響しているのです。
男性名詞を修飾するときは"bon"、女性名詞を修飾するときは"bonne"になるという文法上の規則が、他と微妙に違う「おやすみなさい」の理由というわけでした。
(ちなみにフランス語には、ドイツ語のように格の影響で語形が変化するということはありません)
また"Bonjour"や"Bonsoir"のように1語にまとまらなかったのは恐らく"bonnenuit"のように"n"が連続することを避けるためではないでしょうか。
歴史的には"Bonjour"も"Bon
jor."(古フランス語)のように2語であったようです。
余談ですが、フランス語などのロマンス系言語では基本的に形容詞は名詞を後ろから修飾します。
ところが今回の"bon"(女性形"bonne")のように比較的使用頻度が高く短い単語は名詞を前から修飾することになっているのです。
恐らく文としてのすわりが良いからでしょうか?
確かに"Bon
jour"(形容詞→名詞)に対して、"Jour bon"(名詞←形容詞)では落ち着かない気もします。
3.ロシア語の「おやすみなさい」
では最後にスラヴ系の言語から、ロシア語のあいさつを見てみましょう。
あいさつの表現は以下のバリエーションがあります。
Доброе утро. [ドーブラィエ・ウートラ] おはよう
Добрый день. [ドーブルィ・ヂェーニ] こんにちは
Добрый вечер. [ドーブルィ・ヴィエーチル] こんばんは
ロシア語はキリル文字を表記に用いるので、ドイツ語やフランス語等のラテン文字と比べると目新しいですね。
とはいえ構成は同じで、前半"Доброе / Добрый"が「良い」という形容詞で後半部が名詞です。上から順番に「朝、昼、晩」という訳です。
ところでロシア語では「おはよう」の表現で形容詞の語形が微妙に異なります。
もうお分かりだと思いますが、これもやはり修飾する名詞の性による影響です。
ロシア語では"утро"「朝」が中性名詞、"день"「日、昼」と"вечер"「晩」が男性名詞という違いが影響しています。
ちなみに、ドイツ語のように格による語形の変化も豊富なのがロシア語です。
今回の場合、いずれも主格(日本語の助詞「は、が」等の役割)形ですので、直訳すると「良い朝だ!」のイメージでしょうか。
では「おやすみなさい」はどう表現するかと言うと以下の通りです。
Спокойной ночи. [スパコーイナイ・ノーチ] おやすみなさい
どうでしょう? 微妙どころか全く違う単語が現れました。
なぜ"Спокойной ночи."は全く違う?
ではロシア語の「おやすみなさい」を詳しく調べてみましょう。
まず前半"Спокойной"は「穏やかな、安らかな」という意味の形容詞"спокойный"が修飾する名詞の性や格の影響で変化した語形です。
今までのあいさつの形容詞「良い」とは全く違う単語を用いているというわけです。
そして、後半"ночи"は「夜」という意味の女性名詞ですが、基本となる単数主格形は"ночь"という語形です。語末の文字が微妙に違いますね。
元の形(単数の主格形)から変化して、"Спокойной
ночи."という組み合わせが可能となるには名詞が単数の生格か与格、または前置格の場合になります。
しかしこれ以上の絞り込みはこれだけでは限界です。そこで"Спокойной
ночи."が生まれた背景を紐解いてみましょう。
そもそもこの表現は以下の文章が省略されたものです。
Я желаю вам спокойной ночи! [ヤー・ジラーユ・ヴァーム・スパコーイナイ・ノーチ]
単語を順番に直訳すると、「私は・願う・あなたに・穏やかな・夜の」という感じになります。
自然な日本語にすれば「私は、あなたの穏やかな夜を願う」でしょうか。
直訳の文は日本語の助詞がちぐはぐなため不自然ですね。ところがロシア語の格に倣って訳すとそのようになります。
日本語では「~を願う」というように動詞「願う」に対して助詞「を」が目的語に使われますが、ロシア語では助詞「の」に相当する生格に語形を変えないといけないのです。
ということで"спокойной
ночи"は単数の生格という語形だったわけですが、そもそも他のあいさつとは形容詞そのものが全く異なっているという例でした。
ただ考えてみると、「穏やか」であることが良い睡眠には不可欠なはずで、そう考えるとロシア語の「おやすみなさい」は状況に合ったふさわしい形容詞が使われているとも言えますね。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回は、ドイツ語、フランス語、ロシア語の3言語を取り上げてあいさつの表現を調べてみました。
あいさつは外国語学習の一歩として表現をそのまま暗記してしまうものかもしれませんが、じっくり考えてみると文法規則の学習にも役立つものだと感じました。
今後も外国語学習において興味深い学びがあれば当ブログで紹介していきたいと思います。