ロシア語の「赤」は「美しい」?

2023/03/02

スラヴ諸語

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ハロー。Yumaです。

皆様、今日も楽しんで語学してますか?

私は週末によく公立の図書館に出かけます。

目当ては外国語学習に関連する本を借りに行くことですが、新旧問わずかなりの蔵書数があり大変重宝しています。

しかも当然ながら無料で借りることができるので、これを利用しない手はありませんね。


ロシア語コーヒー・ブレイク

先日、図書館で興味深い本を発見しました。

「ロシア語コーヒー・ブレイク」(日本放送出版協会)という本です。

少し古い本で色褪せや汚れがあったのですが、ロシア語の日常表現や単語にまつわる興味深い話が収録されているので借りることにしました。

帰宅してすぐに読み進めると、数ページして「ソ連」という単語が目に入りました。

驚いて巻末に目をやると、この本の出版年は1980年とのこと。

何と私が生まれるよりも前、ソ連が崩壊する10年以上も前に出版された本だったのです。

著者の佐藤純一さんはロシア語学者とのことで、実際にソ連時代のモスクワ等を訪れた時の経験がもとになっているだけに、この本が単なるロシア語の本というだけでなくソ連時代の情報を知ることができる貴重な資料だと感じられます。

本書では当然豊富なロシア語表現が取り上げられていますが、基本的に読み仮名はありません(アクセント記号は示してくれています)。

事前にロシア語アルファベットの読み方や簡単な単語を押さえておくとより内容が楽しめると思いますが、そうでなくとも1980年頃の状況を知ることができる良書だと思います。


ロシア語の「赤」は「美しい」?

本書の一節にロシア語の単語に関する興味深い話がありました。

ロシアの首都モスクワ中心部にある「赤の広場」(ロシア語では"Красная площадь" [クラースナヤ・プローシチ)は、モスクワを訪れたことが無い人でも聞いたことがある場所だと思います。

日本語では「赤の広場」("Красная"が「赤い」という形容詞の女性形)という訳でも知られますが、この「赤」とはソ連時代の社会主義に起因するものだとばかり思っていました。

ところが、本書によるとそうではないということが分かります。

ロシア語"Красная"(男性形"крaсный" [クラースヌィ])は本来「赤い」ではなく「美しい」という意味だったというのです。


なぜ"Красная"は「赤い」という意味なのか?

この単語をWiktionaryで調べてみると1つ目の意味に「赤い」とあるのに加え、2つ目には古語、詩的な表現という但し書きで「美しい」という意味が掲載されています。

語源はスラヴ祖語の"*krasьnъ"に遡ることができるそうですが、ルーツを同じくする他のスラヴ系言語では現代でも「美しい」という意味の形容詞です(例チェコ語"krásný" [クラースニー])。

Wiktionaryの語源の項では、以下のように記載されています。

The sense “red” is unique to Russian and did not develop in other Slavic descendants of *krasьnъ; first attested in 1515 in Muscovite diplomatic correspondence, it serves as the primary sense of the word in the modern Russian language.

For sense development, compare кра́ска (kráska, “paint), original sense hypothesized to be “blush” or “decoration, and to кра́сить (krásitʹ, “to color”), original sense “to decorate”.

対訳:「赤い」という意味はロシア語においてのみであり、他のスラヴ系言語ではそのような派生は無かった。(「美しい」という意味の)初出は1515年、モスクワ大公国の外交文書においてであり、現代ロシア語では主要な意味を担っている。

この意味の発展は、原義「赤らめる」または「装飾する」と仮定されるkráska「絵具、染料」および原義は「装飾する」であるkrasitʹ「着色する」も比較のこと。

(出典:Online etymology dictionary

元は「赤い」という意味だった"Красная"が「美しい」という意味で初めて用いられたのが少なくとも1515年とかなり古い時代に遡ることが伺えます。

やはり「赤の広場」と社会主義には何の関係も無かったということですね。

比較対象の"kráska"が色の中でも「赤」に関連していること、"krasitʹ"が「装飾する」という原義から発展していることを勘案すると、恐らく「赤」く装飾されることできらびやかなイメージが生まれ、それが「美しい」という意味の発展につながったのかもしれませんね。


最後に

いかがでしたでしょうか。今回はロシア語"крaсный"「赤い」という単語について調べてみました。

きっかけはまだロシアがソ連であった頃の1980年に出版された本の内容からでしたが、ロシア語に対する興味を高めることはもちろん、同書からは当時のことを伺い知ることができる点でも良書でありました。

語学書などはついつい最新の書物に目が行ってしまいがちですが、「温故知新」と言うように昔の書物からでも新たな知識は十分に得ることができますね。

今後も様々な読書や学習による発見があれば当ブログで紹介していきたいと思います。

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プロフィール

Yuma
様々なヨーロッパの言語を独学し、日々の学習で得た発見や個人的に興味深い語学ネタを発信しています。外国語学習に疲れたとき、息抜きに読んでもらえれば幸いです。

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