「ベオグラード」は、なぜ英語では"Belgrade"なのか?

2023/02/27

スラヴ諸語

t f B! P L

ハロー。Yumaです。

皆様、今日も楽しんで語学してますか?

今から十数年前、私は大学でドイツ語を勉強していました。

およそ真面目な学生とは言えなかった私はある日、授業そっちのけで教科書の他のページをぱらぱら捲っているときに巻末資料のヨーロッパ地図を発見しました。

地図にはヨーロッパ各国の名称が記載されていますが、ドイツ語の教科書なのでもちろん表記はドイツ語です。

ドイツ語表記とは言え類推はつきます。例えば"Italien"は「イタリア」です。

ところが唯一分からない国名がありました。

 Ungarn

当時の私には全く分かりませんでした。地図に表記された国名なので、位置関係から推測できるかとも思ったのですがオーストリアの東に位置するその国の見当もつきませんでした。

降参して辞書を引くと、「ハンガリー」であることが分かります。

英語では"Hungary"のように語頭"H"のイメージもあって、ドイツ語"Ungarn"から推測できなかったというわけです。

ちなみに、この語頭Hはラテン語を話したローマ人たちが「フン族(英"Huns")」という遊牧民をハンガリー人と混同したことがきっかけだそうです。

ハンガリーという国名は本来、十の部族を意味する「オノグル("Onogur")」という語に由来しているそうなので、ドイツ語"Ungarn"のように語頭"H"がつかない方がより語源に近い形と言えます。

さらにハンガリーは、ハンガリー語で"Magyarország"と表記します。自国の呼称と他国からの呼称も大きく異なります。

このように固有名詞であっても各国語で表記が異なっていたり、当該の母国語での表記とも異なっていたりすることが往々にしてあります。

固有名詞の呼称についてはその母国語での表現が尊重されるべきと思いますが、他国における表記からは歴史的背景も垣間見ることができて興味深いとも思います。


セルビア共和国の主都ベオグラードの外国語表記

ということで、今回は上で述べたハンガリーのように固有名詞の中でも地名について考えてみたいと思います。

かねてから気になっていたのが、セルビア共和国の首都ベオグラードの表記についてです。

現地の母語であるセルビア語では以下の通り表記します。

 Београд / Beograd

向かって左側がキリル文字、右側がラテン文字による表記です(セルビア語はキリル文字とラテン文字の両方で読み書きすることが可能です)。

日本語でいう「ベオグラード」は、セルビア語に即した表記と言えます。


なぜベオグラードは英語で"Belgrade"なのか

ところが、英語ではベオグラードのことを"Belgrade"と表記します。

その発音も[ベルグレイド](アクセントは「ベ」)となり、英語風の発音になっているように見受けられます。

語末に母音"e"が添えられていることはともかく、セルビア語で"Beo-"というつづりが英語では"Bel-"となっているのはなぜでしょうか?

まずは語源を当たってみました。

From Slavic words beli or beo, meaning white and grad meaning city or town. It was named after the white wall of the fortress that enclosed the city.

対訳:スラヴ語beliまたはbeo「白い」とgrad「都市、町」から。都市を囲む要塞の白い壁にちなむ。

(参照:en.wiktionary

その名は「白い都市」という意味を持つということが分かりますが、注目したいのは「白い」に当たる部分のスラヴ語です。

beli / beo2通りが挙げられています。この違いは何でしょうか?


セルビア語で「白い」という表現は?

引き続きen.wiktionaryを使って今度はセルビア語に当たってみましょう。

すると、"beli / beo"の違いが変化表の中に見つかりました。

変化表によると、"beli"が「原級の形男性単数主格形」であり"beo"が「原級の不定形男性単数主格形」という違いです(太字箇所)。

セルビア語は他のヨーロッパ言語の多くと同様に屈折語であり、名詞や形容詞などはその数や性、格といった機能に応じて語形が変化します。

"beli / beo"はその変化形の違いだったという訳です。

セルビア語の文法について学習可能な「ニューエクスプレス」によると、この「定形」というのは形容詞に定冠詞が付随したような形だとあります。

つまり、不定形の"beo"に対し定形の"beli"は、修飾する名詞を特定のものとして扱う表現であることになります。

英語における呼称が"Beo-"ではなく"Belgrade"であるのは、こうした文法的な背景を踏まえてのことなのかは分かりません(もしかしたら単純に英語での発音のしやすさが理由かもしれません)。

とはいえ、"Belgrade"という表記を調べた結果、セルビア語の文法について学習することができました。


最後に

いかがでしたでしょうか。今回はセルビアの首都"Beograd"「ベオグラード」の英語表記"Belgrade"について調べてみました。

セルビア語と英語では表記が微妙に異なるのは、セルビア語における形容詞の2通りの形が影響していたのかもしれません。

今回の学習でセルビア語に対する興味が高まったので、私は引き続き「ニューエクスプレス」を用いてセルビア語学習を続けていきたいと思います。

ふとしたきっかけで外国語への興味が高まるということですね。今後も楽しみながら語学を継続していきたいと思います。

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Yuma
様々なヨーロッパの言語を独学し、日々の学習で得た発見や個人的に興味深い語学ネタを発信しています。外国語学習に疲れたとき、息抜きに読んでもらえれば幸いです。

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