ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
今年も残すところあとわずかとなりました。
年末年始は仕事納めに向けて抱えている仕事を切りよくこなすため慌ただしくなりますが、もう少しすれば休暇だということで気分も上がってきます。
その前に、先日の記事でも書きましたが今週末はクリスマスですね。
クリスマスを祝うフレーズは英語で"Merry
Christmas!"ですが、私は最近チェコ語を学習しているので、チェコ語で何と表現するか調べてみました。
チェコ語のメリークリスマス
チェコ語では、"Veselé
Vánoce!" [ヴェセレー ヴァーノツェ]と表現します。
前半の"Veselé"が「喜ばしい、陽気な」という意味の形容詞で、後半"Vánoce"が「クリスマス」を意味する名詞です。
要するに、英語"Merry
Christmas!"と同じ語順、同じ意味の表現だと言えます。
ただし、英語と決定的に異なる点が1つあります。
それはクリスマスの「数」です。
チェコ語"Vánoce"は、実は複数形なのです。そもそも"Vánoce"には単数形は存在しません。
これはどういうことでしょうか?
(ちなみに英語"christmas"は不可算名詞とされていますが、複数形"christmasses"としての例もあるようです。参照:https://en.wiktionary.org/wiki/Christmasses#English)
ドイツ語のメリークリスマス
なぜ"Vánoce"は複数形しか存在しないのか。その理由を求めるにはドイツ語を調べる必要がありそうです。
英語版Wiktionaryによると、"Vánoce"の語源はドイツ語からの借用だとあります。
Borrowed from German Weihnachten.
出典:en.wiktionary
それではチェコからドイツへ飛び、クリスマスを意味するドイツ語"Weihnachten" [ヴァイナハテン]について調べてみましょう。
"Weihnachten"は"Weih"と"nachten"という2つの単語から成っていますが、前半"Weih"は動詞"weihen"「神聖化する」に由来し、後半の"nachten"は名詞"Nacht"「夜」に由来します。
つまり"Weihnachten"で「聖なる夜」と言えるでしょう。
チェコ語の"Vánoce"はドイツ語からの借用ということですが、後半の"-noce"はチェコ語で「夜」を意味する名詞"noc"に由来します。前半の"Vá-" [ヴァー]はドイツ語"Weih-" [ヴァイ]の音が由来すると思われ、ドイツ語の音に似せたり「夜」に相当する単語を当てたりして、取り入れたのだと思います。
さて、チェコ語"Vánoce"が複数形しか存在しない理由もまた、借用したドイツ語に由来するようです。
ドイツ語"Weihnachten"は形は変わらないものの単数形と複数形が存在します。
メリークリスマスに相当する表現は、"Frohe
Weihnachten!" [フローエ ヴァイナハテン]と言いますが、この"Weihnachten"は複数形です。
これは修飾する形容詞"Frohe"「嬉しい、楽しい」が複数形の形であることからも明らかです(もしWeihnachtenが単数形だと、"Frohes"が正しい形になります)。
そこで"Weihnachten"が複数形である背景を調べてみましょう。
複数形で用いられたクリスマス
ドイツ語"Weihnchten"の語源について英語版Wiktionaryには以下のように解説されています。
From Middle High German wīhenahten (“Christmas”), from a dative plural ze den wīhen nahten (“in the holy nights”).
対訳:中高ドイツ語wīhenahten「クリスマス」、複数形の与格ze den wīhen nahten「聖なる夜に」から。
出典:en.wiktionary
もとは別々の単語"wīhen
nahten"で文字通り「聖なる夜」であったことが伺えますが、複数形がベースになっているのは何故でしょう。
もう少しWiktionaryを読み進めると、以下の言及があります。
The oldest form (1170) is a singular diu wīhe naht (“the Holy Night”); the somewhat later plural is used to refer to the Christmas days and nights collectively.
対訳:最古の形式(1170年)は単数形diu wīhe naht「聖なる夜」ですが、そのやや後でクリスマス当日の昼と夜をまとめて指すために複数形が使われるようになった。
出典:en.wiktionary
昼と夜をまとめて表すために複数形になったというのは驚きです。
この説がどこから取られたのか不明ですが、少なくとも昔は"Weihnachten"が複数形で使われていたことは確かなようです。
他に、DWDS(参照:https://www.dwds.de/wb/Weihnachten)や書籍『ディアロークで身につけるドイツ語単語4000(ベレ出版)』でも古くは複数形扱いであったことが言及されています。
以上からチェコ語は複数形扱いだった時代の"Weihnachten"を借用した結果、現代語には複数形しか存在しなくなったのかもしれません。
やっぱりクリスマスは単数形?
結局のところクリスマスは複数形ということでしょうか。ところが、一転して現代ドイツ語では単数形での用法が主流なようです。
Das Wort wird meist im Singular verwendet. Wenn die Pluralform von Weihnachten verwendet wird, dann meist in Verbindung mit einem attributiven Adjektiv,
対訳:この単語(注:Weihnachten)は主に単数形で用いられます。複数形が用いられるのは、主に付加語的(名詞を修飾する)用法の形容詞と共に用いられる場合です。
出典:DWDS
ドイツ語でクリスマスが複数形扱いだったのは過去のお話で、現代では単数形であることに注意しましょう。
メリークリスマスを意味する"Frohe Weihnachten!"は複数形だと先ほど述べましたが、それは"Frohe"という形容詞を伴っているからだということですね。
ちなみに、ドイツ語では他に"Fröhliche [フレーリヒェ] Weihnachten!"という表現もありますが意味は同じで、この時の形も複数形です。
また、単数形の場合は性の区別をしなければなりませんが、"Weihnachten"は中性名詞です。
一方で"Nacht"「夜」は女性名詞なので、間違えないよう注意しましょう。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回はクリスマスについて考えてみました。
ドイツ語での記録は1170年まで遡り、それだけこのイベントが長い歴史を持つことが分かります。
その歴史の中で単数形か複数形か、その扱いにも変遷があったということですね。
そんな言葉の変遷にも思いを馳せながら、今年のクリスマスは過ごそうと思います。