ハロー。Yumaです。
皆様、今日も楽しんで語学してますか?
当ブログでも度々取り上げていますが、「ロマンス諸語」と分類される言語グループがあります。
例えばイタリア語、フランス語、スペイン語・・・などが属するグループですが、なぜこれら言語がグルーピングされているかというと、そのルーツにラテン語という共通の存在があるからです。
ラテン語はローマ人の公用語でしたが、ローマ帝国が崩壊後に各地で発展した言語がイタリア語、フランス語、スペイン語・・・等として今に至るということですね。
また英語は本来はゲルマン系の言語ですが、歴史的にフランス語からの借用語を多く取り入れているという背景があります。
以上のことから、ロマンス諸語(や英語)はラテン語を共通のルーツを持ち、これら言語の間には類似した語彙を簡単に見つけることができます。
ただ、そうはいっても各地の歴史や文化を織り込みながら発展してきた各言語の間には異なるところももちろんあります。
今回は、そんな微妙に異なる少し不思議な単語の例を紹介したいと思います。
「メッセージ」のルーツとは?
今回取り上げるのは「メッセージ」についてです。
「メッセージ」という単語は、日常的に使われる外来語だと思います。
調べてみると日本語では「伝言」という意味で、英語"message"からの借用語です。
英語"message"はフランス語を経由した単語であり、ルーツはラテン語にあります。
Online
etymology dictionaryを紐解いて、語源を尋ねてみましょう。
from Old French message "message, news, tidings, embassy" (11c.), from Medieval Latin missaticum, from Latin missus "a sending away, sending, dispatching; a throwing, hurling," noun use of past participle of mittere "to release, let go; send, throw"
対訳:古フランス語message「伝言、ニュース、情報、大使館」(11世紀)から、中世ラテン語missaticumから、動詞mittere「放つ、送る、投げる」の過去分詞形missus「送信、派遣、投げること」の名詞的用法から
出典:Online
etymology dictionary
以上のことから、英語に取り入れられるまでの経緯が分かります。
ちなみに、ラテン語の動詞"mittere"や過去分詞形"missus"から派生した英単語には他にも以下のものがあります(太字が関連部分です)。
promise「約束する」、permit「許可する」、missile「ミサイル」
"missile"は少し意外かもしれませんが、動詞"mittere"の意味を考えれば同源であることは一目瞭然ですね。
ロマンス諸語の「メッセージ」比べてみると・・・
先述の通り、ラテン語をルーツにイタリア語やフランス語、スペイン語などが派生していることから、各言語における「メッセージ」を意味する単語を挙げてみましょう。
イタリア語 messaggio [メッサッジョ]
フランス語 message [メサージュ]
スペイン語 mensaje [メンサヘ]
ポルトガル語 mensagem [メンサジェン]
いずれもよく似ていますね。
さて、ここで各言語を並べてみると少し違和感を覚えます。気になるのは、スペイン語とポルトガル語で現れる子音"n"の存在です。
ルーツのラテン語にも無かった子音"n"ですが、なぜこの2言語で"mens-"のつづりとなっているのでしょうか。気になったので調べてみました。
1.一部地域でのみ見られる現象?
まず、英語版wiktionaryでルーツとなったラテン語"missaticum"を検索してみます。
wiktionaryの便利な点の1つに、対象の単語の派生語を調べることができる点があります。
上で挙げたロマンス諸語の「メッセージ」は、wiktionaryを参照しました。
派生語の一覧によると、スペイン語"mensaje"のように子音"n"が現れる言語は、他にポルトガル語やガリシア語"mensaxe" [メンサシェ]が見つかりました。
ガリシア語は、スペイン北西部ガリシア州で話される言語です。地図によるとガリシア州はポルトガルのちょうど真北に位置していることがわかります。
wiktionaryから少なくとも3言語で、"mens-"のつづりであることが分かりました。いずれもイベリア半島で話されている言語です。
地理的な影響があるのでしょうか。
もう少し調べてみると、カタルーニャ語"missatge" [ミサジェ]という派生語があり、こちらは子音"n"は登場しません。
カタルーニャ語はスペイン東部カタルーニャ州(州都バルセロナ)を中心に話される言語です。
どうやら、イベリア半島の中でも西部の言語で子音"n"が登場しているようです。
2."mensaje"でのみ見られる現象?
語源については既に述べましたが、"mensaje"のルーツはラテン語の動詞"mittere"や過去分詞形"missus"にあります。
では、"mittere"や"missus"の派生語もスペイン語などでは子音"n"が現れるのでしょうか。
調べてみると、"mittere"から派生したスペイン語は"meter"であり子音"n"は現れません。
過去分詞形"missus"はどうかというと、スペイン語では"metido" [メティド]となり形自体が異なることがわかりました。
動詞"meter"と過去分詞形"metido"はポルトガル語とガリシア語でも同形であり、いずれも子音"n"は登場しません。
また、ラテン語"missus"から派生した形はこれら言語では見られなさそうです。
どうやら「メッセージ」という単語においてのみ、子音"n"が現れているということになります。
3.「メッセージ」はフランス語由来だった?
更にwiktionaryを調べてみると、新たなことが分かってきます。
ロマンス諸語の「メッセージ」はラテン語"missaticum"にルーツがあることは確かなのですが、どうやらフランス語"message"やオック語(南フランスで話される言語)"messatge"を各言語が借用したようです。
wiktionaryの各項によれば、スペイン語"mensaje"は古フランス語または古オック語からの借用語、ポルトガル語"mensagem"も古フランス語からの借用語であるとの記載がありました。
借用語というと単語の形はそのままに受け入れるイメージがあったのですが、これら言語においては子音"n"が現れたということになります。
いつ、どこで子音"n"が挿入されたのでしょうか。
"mensaje"の"n"は異化の結果か?
なぜ、子音"n"が挿入されたのか。残念ながら私の調べられる範囲では分かりかねました。
ただ以前、「イタリア語で「7月」は何故"luglio"なのか?」という記事で調べたように、異化の影響があるのではないかと考えています。
異化とはある単語において同じか類似の音があるときに、一部が別の音に変化する現象です。イタリア語で「7月」を意味する"luglio" [ルッリョ]の先頭の子音"L"が異化による変化の結果なのだそうです。
この異化がイベリア半島の西部という限られた地域で起こった結果、スペイン語"mensaje"のように子音"n"が挿入というよりはルーツの"message"の1つ目の"s"が"n"に変化したのではないかと考えました。
【参考】子音"n"が脱落するケースもある。
今回は子音"n"が現れる単語として紹介しましたが、ラテン語から各言語へ派生する中で逆に子音"n"が脱落した例があります。
例えば、「(暦の)月」を意味するロマンス諸語を見てみましょう。
イタリア語 mese
[メーゼ]
フランス語 mois
[モア]
スペイン語 mes
[メス]
ポルトガル語 mês
[メシュ]
これら単語はいずれもラテン語"mensis"から派生していますが、ラテン語にあった子音"n"が無くなっています。
他にもラテン語"pensum"→イタリア語"peso"「重さ」の例もあり、どうやら"-ns-"という音のときに子音"n"が消える例があるのではと推測されます。
こうした例もあることから、特に今回の"mensaje"のように子音"n"への変化は新しい発見でした。
最後に
いかがでしたでしょうか。今回はロマンス諸語を比較して、気になったスペイン語"mensaje"の子音"n"について調べてみました。
ラテン語にルーツを持ち、長い時間を掛けて発展してきた各言語は本当に奥が深いですね。
それだけに常にその背景が明らかになるとも限らないのですが、今回のような気になる点に興味を以て調べてみることでより外国語に対する興味も高まるのではないかと思っています。
今後も同様の事例があれば調べてみて、紹介していきたいと思います。